性同一性障害(GID)FTMの男性ホルモン治療 静岡美容外科橋本クリニック
前回は性同一性障害(GID)の治療の第一段階である「診断」について詳しくお話しました。
簡単に復習しますと、性同一性障害(GID)治療は日本精神神経学会が公表した「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」にのっとって行われます。治療はホルモン療法や手術療法など不可逆的治療であるため、診断が確実であることが前提ですので、まずは精神科を受診し診断を受けることが重要です。
性同一性治療の3ステップ
①精神療法 ②ホルモン療法 ③手術療法
今回は性同一性障害(GID)のFTMの方々への男性ホルモン療法について詳しくお伝えいたします。
MFTの方々への女性ホルモン療法については「性同一性障害で悩んだらMTF編」を参考にしてください。
性同一性障害(GID)のホルモン療法開始のその前に!
性同一性障害の(GID)の診断を受けたうえでその先の身体的治療に移行するかどうかは自己責任のもと自己決定することができまが、ガイドラインでは以下の条件を満たしたうえで身体的治療を開始することとしています。
①精神療法の開始後も性別違和(Gender Dysphoria)、つまり、生物学的性別とジェンダーアイデンティティーの不一致が継続し、強い苦痛があること。
②性同一性障害当事者の望む新たな生活(MTFの場合は女性としての生活・FTMの場合は男性としての生活)を試みる、または、すでにしており、その生活が持続的に安定していること。
- 新たな生活を送るなかで周りの人たちが好奇の目にさらされることに耐えられるかどうか
- 新たな生活で仕事や学校が継続できるかどうか
③身体的変化に伴う心理的・家庭的・社会的困難に直面した際に当事者自身が自らを支えられるか、または、家族や友人によるサポート体制が整っていること。
④様々な葛藤や不安に対して耐えうる精神状態(葛藤や不安から衝動的に自傷行為・薬物依存・自殺行動をおこさない状態)であること。
⑤ホルモン療法・手術療法による身体的変化や副作用を十分理解し同意していること。
上記①~⑤については精神療法の段階で総合的に判断されます。
性ホルモンとは
初めに性ホルモンについて簡単に説明します。
性ホルモンはステロイドホルモンの一種で二次性徴における性器および男女の外形的性差を生じさせます。また精子や卵胞の成熟や妊娠の成立・維持に関係しています。
性ホルモンは男性ホルモン(アンドロゲン)と女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)に分けられます。
男性ホルモン(アンドロゲン)
男性ホルモンは生殖器の発育や機能促進に関係し、男性の第二次性徴(皮脂の分泌亢進・体毛が濃くなる・声変わり・性欲の高まり・筋肉や骨格の発達)を発現させる作用をもつ物質の総称です。以下のホルモンからなります。
- テストステロン
思春期以降睾丸からの分泌が顕著に増加し、男性的な身体の特徴が形成されるのに関与します。睾丸で95%、副腎で5%分泌されます。
- ジヒドロテストステロン
テストステロンに5αリクターゼという酵素が結びつくことにより生成されるのがジヒドロテストステロンです。このホルモンは毛髪のもととなる毛母細胞の働きを低下させる作用があることから男性型脱毛症(AGA)と関係の深いホルモンです。
- デヒドロエピアンドロステロン
テストステロンの材料となるホルモンです。副腎疲労・循環器病・糖尿病・高コレステロール症・肥満・合併性硬化症・パーキンソン病・アルツハイマー病などに効果があると言われており、若返りホルモンとも呼ばれています。
女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)
女性ホルモンは女性の性腺に大きく関係するホルモンで卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の二種類があります。
- 卵胞ホルモン(エストロゲン)
2歳以降から思春期を迎えるまで分泌が増加し、卵巣の発達を促し、女性の第二次性徴(乳房の発達・初潮・体型の変化)を促進させます。卵巣・胎盤・副腎で作られます。
女性らしい身体をつくるのは、おもにエストロゲンの作用です。
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)
思春期・成人女性の卵巣から分泌されます。妊娠中期以降は胎盤からも分泌されます。
主な働きは子宮を妊娠の準備をするように変化させたり、月経周期を決め、妊娠時にはそれを維持させることです。
性同一性障害(GID)FTMへのホルモン投与による身体的変化
性同一性障害(GID)当事者へのホルモン療法は、なりたい性に身体・精神を近づけるために行われます。
MTFには女性ホルモン、FTMには男性ホルモンを投与します。
男性ホルモン投与によりFTMの身体に現れる変化
- 月経の停止
- 体毛が濃くなる
- 皮脂の増加
- 脂肪量が減り筋肉の増加
- 声の男性化
- 膣の萎縮と陰核の肥大
- 性欲の増強
男性ホルモン投与では身体は男性的に変化しますが(個人差はあります)乳房の大きさは変わりません。男性のような胸にするためには乳腺摘出術を受ける必要性があります。
性同一性障害(GID)FTMの男性ホルモン製剤
FTMに使用される男性ホルモン(アンドロゲン)は、内服薬・注射薬・塗り薬があります。
内服薬は肝臓で不活化されることから吸収の不確実性と肝障害の問題があるため、日本国内では注射薬での投与が一般的です。
女性に投与する場合、1か月に200~300㎎以上投与すると男性化が起こります。
注射薬
国内ではエナント酸エステルとプロピオン酸エステル125㎎・250㎎という規格があり、当院ではテストロンデポー250㎎を取り扱っています。
投与はテストロンデポー250㎎を3~4週間に1回の頻度で筋肉注射します。
塗り薬
国内唯一の塗り薬の「グローミン」はテストステロンを配合した医薬品です。
グローミン1g中にテストステロン10㎎含有されています。
1日1~2回皮膚に塗りこみます。
当院での取り扱いはありません。
性同一性障害(GID)FTMの男性ホルモン投与による副作用
男性ホルモン投与による副作用は以下の通りです。
膣の機能低下
・長期投与により膣が萎縮するため自浄作用が低下します。これにより膣感染症を起こしやすくなります。
皮脂分泌増加
・皮脂の分泌が亢進しニキビができやすくなったり、毛穴が目立つようになります。
頭髪脱毛
・男性ホルモンが毛母細胞に作用し薄毛を引き起こします。
肝機能障害
・ホルモン剤は肝臓で分解されるため負担がかかることにより肝機能障害をきたします。
多血症・血栓塞栓症
・男性ホルモンの影響で血液中のコレステロールと中性脂肪が増加しやすくなります。これにより動脈硬化や心筋梗塞など重篤な病気を発症するリスクが高くなります。
不可逆性の変化
・男性ホルモン投与中は月経が停止しますが、投与を中止した場合、卵巣機能が徐々に回復するため再開します。しかしいったん機能低下を起こした子宮や卵巣が完全に男性ホルモン投与前の状態に回復するかどうかは不明です。また、低音化した声ももとには戻りませんし、髭や体毛も生え続けます。
ホルモン投与による異常の早期発見のための定期検査
もともと健康な身体である場合、ホルモン治療による合併症のリスクは低いとされています。
しかしどんな薬剤でもそうですが、副作用には注意する必要があります。
定期的な検査は異常を早期に発見できますし、結果に異常があれば、それがホルモン治療によるものか否かの判別が必要です。必要時はホルモン投与の中止、または、量の調整を行います。
また、性ホルモンの血中濃度を定期的にチェックし、その効果を評価することも必要です。
そのために3~6か月に1度、血液検査を行います。
性同一性障害(GID)MTFの男性ホルモン治療のまとめ
性同一性障害(GID)のホルモン療法は精神療法の段階で総合的に判断されてから開始される。
性同一性障害(GID)FTMへは身体を男性に近づけるため男性ホルモンを2~3週間に1度投与する。
ホルモン療法開始後は異常の早期発見のため定期的な血液検査を受ける。
今回は性同一性障害(GID)FTMの男性ホルモン療法についてお伝えいたしました。
当クリニックではGID当事者が自分らしく前向きに生きていくことを応援していきます。
些細なことでもお気軽に相談してください。
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