性同一性障害(GID)FTMの気になる悩み・胸オペ編(乳腺摘出/乳房切除)

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以前、性同一性障害で悩んだら(MTF編)をアップしました。

簡単に復習しますと、GIDとはGender Identity Disorderの頭文字をとった略称で生物学的性別と性自認が不一致である人たちに対する医学的な疾患名です。そして生物学的性別が女性で、性自認が男性である人をFTM(Female To Male)、生物学的性別が男性で、性自認が女性である人をMTF(Male To Female)と表記します。

2015年に電通ダイバーシティ―ラボ調べによりますと、日本にのLGBTの割合は7.6%でそのうちGID14%と報告しています。また、日本精神神経学会GID委員会によりますと、性同一性障害(GID)で国内の医療機関を受診した人が平成27年末までに延べ約2万2千人に上ったとの調査結果を発表しました。(体が女性で心は男性(FTM)の受診者が1万4747人だったのに対し、MTFのケースは7688人)

今回はFTMに気になる身体の悩み「胸オペ(乳腺摘出/乳房切除)」についてお話します。

治療目的の乳腺摘出/乳房切除

先日、歌舞伎役者市川海老蔵さんの妻小林真央さんは2016年6月に乳がんステージ4であること公開してから約1年、2017年6月22日、他界という悲しいお知らせがありました。

厚生労働省がまとめた「国民生活基礎調査」によると、2016年の1年間に乳がん検診を受けた40代から60代の女性の割合は36.9%で、9年前に比べて12ポイント以上上昇しています。乳がん検診受診率が上昇するのは、乳房の異常を早期に発見しできることにつながるためとても重要です。しかし、近年乳がんの罹患率は上昇している現実があり、日本人女性の癌罹患率トップは乳がんで20%を占めています。女性が1番気を付けなければいけない癌と言われています。

以下に代表的な乳房の疾患を簡単にまとめてみました。

乳腺症

一般的に乳腺症とは良性の乳腺の変化のことで病気ではありません。さまざまな乳腺の変化を総称していいます。原因は明らかになっていませんが、女性ホルモン(エストロゲン)に関連すると考えられ、症状としては乳房のしこり感とともに緊満感、疼痛 ( 自発痛、圧痛 ) を認め、特に月経前に痛みが強くなり、30歳から50歳の女性に多くみられます。
診察所見では、境界が不明瞭なしこりや固くゴツゴツした乳腺が認められます。

乳腺線維腺腫

良性のしこりで、10~30歳代に多発します。
触れると表面はツルツルと滑らかで弾力があり、よく動きます。
周りの乳腺との境がはっきりしています。左右両側の乳房にできたり多発することもあります。

乳腺炎

乳腺に炎症がおきて、痛み、皮膚が赤くなったり、膿がたまったりします。抗生物質を内服したり、切開排膿する場合もあります。

乳管内乳頭腫

良性の腫瘍で30~50歳代に多く認められます。比較的太い乳管の中にあります。
やわらかくて小さいため、気がつかないことも多いです。代表的な症状は乳頭から血液が混じった分泌物が出ることです。(淡黄色の場合もあります)
痛みや腫れを伴うことはほとんどなく、左右両側の乳房にできたり多発する場合もあります。

上記疾患は検査や処置により乳がんとの鑑別診断のため検査や処置が必要であったり、抗菌薬の内服が必要です。医療機関を受診し的確な治療を受ける必要があります。

乳がん予防目的の乳房/乳腺手術

次に乳房の疾患を発症していなくても乳房切除/乳腺摘出術が行われる場合があります。

アメリカ・ハリウッドを代表する女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、2013年5月14日、「ニューヨーク・タイムズ」紙を通して、乳がんになるリスクを減らすために「予防的乳房切除術」を受けたことを発表し、日本でも話題となりました。

ニューヨークタイムズ紙によりますと、ジョリーさんの母親も叔母も、がん抑制遺伝子のBRCA1とBRCA2のどちらか、もしくは両方に生まれつき変異を持つ「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC/Hereditary Breast and Ovarian Cancer)」で、ジョリーさんの母親は卵巣がんと乳がんを併発して56歳で他界、叔母も卵巣がんで亡くなっています。

またジョリーさん自身にも、がん抑制遺伝子BRCA1に変異があることが判明し、乳がん罹患リスクが87%、卵巣がんリスクは50%と診断されました。

がん抑制遺伝子のBRCA1とBRCA2は誰もが持っている遺伝子で、本来は遺伝子が傷ついたときに修復する働きを持っています。しかしそれに変異がある場合、乳がんと卵巣がんの発症率が高くなってしまいます。

つまり、乳癌と診断されたことはないものの、乳癌リスクが非常に高いことが分かっている女性において、そのリスクを減らす目的で行われる手術が予防目的の乳房切除術/乳腺摘出術(リスク低減手術)です。

リスク低減手術には2種類あります。

①全乳房切除術

乳頭を含む両側乳房を完全に切除する手術

②皮下乳房切除術または乳頭温存乳房切除術

乳頭はそのまま残しつつ乳房組織を可能な限り切除する手術

リスク低減施術のメリット・デメリット

また、別の種類のリスク低減手術に予防的卵巣摘出術があります。

この手術では卵巣と卵管の摘出します。乳癌リスクが非常に高い閉経前女性に対して単体、または、予防的両側乳房切除術一緒に実施できます。閉経前女性の卵巣を摘出することにより、体内で産生されるエストロゲン量が減少します。エストロゲンはいくつかのタイプの乳癌の増殖を促進するため、この手術を受けることで体内エストロゲンの量を減らせば、乳癌の増殖速度を低下させることができる可能性があるのです。

美容・整容目的の乳房/乳腺手術の種類

胸を大きしたい、左右のバランスを整えたい、乳輪や乳首を小さくしたいなど、女性の胸に関する悩みに対して以下の手術があります。

豊胸術(バック挿入・フィラー注入)・乳輪縮小術・乳頭縮小術・陥没乳頭・乳房つり上げ・モントゴメリー腺切除などがあります。

胸を男性の様に平らにしたいなど、性同一性障害(GID)のFTMの胸の関する悩みに対しての施術もあります。

ちなみに性同一性障害(GID)当事者が戸籍変更をするためには「生殖腺が無いこと、また、生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に似ている外観を備えていること」という要件を満たす必要があります。そのため戸籍変更をゴールとするFTMは性同一性障害の診断のもと性別適合手術を受けるという段階を踏みます。乳腺は生殖器ではありませんので乳腺摘出術を受ける場合に診断書は必要ないということになります。

性同一性障害(GID)FTMの胸の悩み

胸は女性の象徴であり、女性らしさを表現する部分です。

女性にとって「胸」は母乳分泌という大切な機能的役割を果たすほか、ファッション・アイデンティティとしての役割も果たしています。

しかしFTMは女性的身体変化に嫌悪感を持ちます。「胸が大きくなっていくのがすごく嫌だった」「海水浴やプールで裸になれない」「温泉で男湯に入れない」「ボディーラインが気になる」というのはよく聞く話です。

しかしそれらの悩みは簡単に解決できる事ではありません。

では、どのような解決策をとっているのでしょうか。

性同一性障害(GID)FTMの胸の悩みの解決法①なべシャツ

「ボーイッシュな髪型や服装」

しかしそれだけでは身体のラインを隠し切れない場合もあり、外見的なパス度が下がってしまうと捉えます。

パス度とは自分の望む性で社会的に通用できていることをいいます。

  • FTMの場合:他人に男性と思われ、女性やFTMと思われないこと。

そこで登場するのが・・・「なべシャツ」

「なべシャツ」とは膨らんだ胸を潰して平らに見せるための着るだけで上半身のみ男性的なスタイルへ変えてくれるシャツです。

着るだけで簡単に男性的な胸板を手に入れられるというのはメリットですが、長時間・長期間の着用を続けると胸が下垂した形になります。

ちなみに、下垂が進行するとにより乳房切除手術の術式が複雑になり、傷が大きくなります。

性同一性障害(GID)FTM胸の悩みの解決法②男性ホルモン注射

次に考えるのは男性ホルモン剤の投与。

男性ホルモンはアンドロゲン(Androgen)と呼ばれるステロイドホルモンで、その中にはテストステロン・ジヒドロテストステロン(DHT)・デヒドロエビアンドロステロン(DHEA)・アンドロステロン・アンドロステンジオン・エピアンドロステロンがありますが、大部分はテストステロンです。

男性の体や心の状態を左右する大事な要素。ヒゲや太い骨格といった男性らしいたくましい体をつくることはもちろん、筋肉の増加やバイタリティを高める作用、男性性器の発育と機能の維持や性欲を高める作用もあります。

GIDが男性ホルモン剤投与により期待される身体的変化は以下の通りです。

ひげや体毛が増加・筋肉質・声の低音化・月経停止・クリトリス肥大・乳房の萎縮・ニキビや男性型脱毛・攻撃性が高まるなどの精神的変化

また、以下の副作用もありますので注意が必要です。

多血症・にきび・浮腫・血圧上昇・肝機能障害・精神不安定

男性ホルモン剤の投与により乳房の萎縮が起きる可能性があります。しかしこれは男性的な胸になることではありません。男性ホルモン剤投与により筋肉や脂肪のつきかたが変化します。乳房の膨らみは乳腺と脂肪によるものであるため、脂肪が減ることにより乳房が小さくなるのです。

性同一性障害(GID)FTM胸の悩みの解決法③乳腺摘出

FTMの多くは性別適合手術を受けたいと考えます。2003年に性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律が成立して以来、2014年までに総数5000人を超える人が戸籍変更を行っています。

戸籍変更のために性別適合手術(子宮卵巣摘出術、膣粘膜切除・膣閉鎖術、尿道延長術、陰茎形成術)を受けます。乳腺は性腺ではないため、乳腺を摘出していることは変更のための必要要件には入りません。しかし男性的な身体になるためには乳腺摘出術を受けることも必要になるのです。

しかし健康な身体にメスを入れる事への抵抗、高額な手術費用等から、なかなか手を出せないのも現状です。

以下にFTMを対象とする乳房切除/乳腺摘出について説明します。

乳房の解剖

初めに乳房の解剖を簡単に紹介します。

乳房は、皮膚、脂肪組織、乳腺組織とそれらを支える結合組織からなっています。

外側から、皮膚、浅在筋膜浅層、皮下脂肪組織、乳腺、乳腺後脂肪組織、浅在筋膜深層、大胸筋が存在しています。乳腺はクーパー靭帯によってテント状に吊り上げられる状態になっていて、クーパー靭帯は浅在筋膜浅~深層につながっています。

乳房の発達には「エストロゲン」「プロゲステロン」という二種類の女性ホルモンが影響します。胸の成長だけをみると「エストロゲン」が重要です。

胸の膨らみは乳腺の発達により起こり、その周りに脂肪がつくことで大きく膨らんでいきます。そして発達した乳腺の周りに脂肪がしっかりとつき、丸く大人らしい胸の形になります。乳腺が多ければ多いほどその周りにたくさん脂肪がつき大きく成長するので胸は大きくなります。

性同一性障害(GID)FTMの受ける胸オペ(乳腺摘出/乳房切除術)の術式の種類

乳腺摘出/乳房切除の術式は3つあり、その適応は乳房下垂重症度分類を指標に基づき決定します。

乳房下垂の重症度分類

乳輪切開法

乳輪切開法は乳房下垂の重症度分類で正常の場合適応されます。

乳輪下半周に沿って小さく切開し、そこから乳腺と脂肪を取りだします。出血が非常に少なく、傷はほとんどわからなくなります。手術後は胸を圧迫しますが、約1週間後の抜糸が終了すると普段通りの生活に戻ることができます。多くの方はこの手術のみで、男性の胸のように平らに仕上がります。

ドーナツ状乳輪切開法

ドーナツ状乳輪切開法はA等級の場合適応されます。

やや胸のある場合は、乳輪をドーナツ状に切り取り、皮膚と乳腺を切除し縫い縮じめます。出血は比較的少なく、傷はほとんどわからなくなります。手術後は胸を圧迫しますが、約1週間後の抜糸が終了すると普段通りの生活に戻ることができます。

 

乳房皮膚切除法

乳房皮膚切除法はB~C等級の場合適応されます。

ある程度の大きさと、皮膚の弾力性がなく重度の下垂がある場合、乳腺切除と乳輪・乳頭を含めて乳房皮膚切除を同時に行います。そして皮膚縫合後、乳輪乳頭を適切な位置に移植します。乳輪乳頭移植は定着率に個人差があるため、適切な手術を行ってもまれに定着しない場合があります。皮膚縫合を行いますので左右に横のラインで傷か残ります。手術後は胸を圧迫します。創部の状態によりますが、約1週間後の抜糸が終了すると普段通りの生活に戻ることができます。

性同一性障害(GID)FTMが受ける胸オペ(乳腺摘出/乳房切除)のメリット&デメリット

メリット

ボディーラインが男性的になります。外観的に変化により自分に自信が持て、ポジティブになれます。また、なべシャツで胸を潰す必要がなくなります。

デメリット

傷跡が残る可能性があります。また術式や執刀医の技術力も影響しますが、元々の胸のサイズにより、皮膚にたるみや引き連れが生じる可能性もあります。

乳腺摘出手術(U字切開法)3か月後の経過

乳腺切除法後(U字切開法)3か月の症例です。

手術後3か月目ですので皮下組織の硬結がピークの時期です。

硬結は半年から一年で徐々に柔らかくなってきます。

乳腺は完全に取り除かれ男性的な胸になっています。

費用:全身麻酔代+乳腺摘出代 500,000円(税抜)

治療時間:2~3時間

腫れ・内出血:2週間程度

リスク・副作用:感染、血腫、皮膚のたるみの残存、皮膚の剥離、乳頭欠損の可能性

性同一性障害(GID)FTMの気になる悩み・胸オペ編(乳腺摘出/乳房切除)のまとめ

平成15年7月「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)が成立し平成16年7月から施行されました。 この法律によって,性同一性障害者は,性別適合手術の実施を含む一定の条件のもとで戸籍の性別変更ができるようになりました。

GID当事者が抱える精神的・身体的・社会的悩みは尽きることがありません。しかし近年、法や条例の整備・GID治療のガイドラインの改定・メディアの影響などにより私たちLGBTを取り巻く環境は変化しています。

今回はFTMの方々が抱える胸の悩みをお伝えしました。

当クリニックではGID当事者が自分らしく前向きに生きていくことを応援していきます。

些細なことでもお気軽に相談してください。

静岡美容外科 橋本クリニック

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